線維筋痛症とは
血液検査やレントゲン、CTスキャン、MRIなどの検査でははっきりとした異常が見付からないにも関わらず、慢性的に骨格筋の痛みが続くのが線維筋痛症の特徴です。
痛みの起こり方は様々ですが、天候や気温、湿度、環境の変化や肉体的、精神的ストレスなどで変化する事が多くみられます。
現在の日本の線維筋痛症の患者数は200万人以上とも言われており、患者の約8割は女性です。
発症の契機として交通事故などの怪我や手術、精神的なストレスが知られています。
西洋医学的な治療では鎮痛剤での効果が充分で無い事が多く、抗うつ剤や抗不安薬、抗てんかん薬が用いられる事が多いようです。
それでも充分な効果が得られず、長く強い痛みに悩まされる事も少なくないようです。
なぜ線維筋痛症が起きるのか。はっきりとした原因は解明されていません。
線維筋痛症に対する漢方薬でのアプローチ
線維筋痛症は痛みの症状に個人差が大きいのが特徴です。
そのため線維筋痛症の方なら誰にでも効く漢方薬というのは無く、体質的な傾向や症状の出方など一人ひとりに合わせた漢方薬で改善に取り組む必要があります。
その中でも線維筋痛症の場合は痛みの原因として、瘀血(血行障害)、冷え、知覚神経の過剰反応(自律神経のバランスの乱れ)が関係しているケースが多いように感じます。
瘀血に対する漢方薬
瘀血とは単なる血行障害だけを指すのでは無く、体内に停滞した古血が様々な心身の不調の原因と関係していると考える東洋医学の概念の一つです。
交通事故や打撲などが契機となっているような症状には、瘀血が関係している事が多い傾向があります。
また女性は生理の関係から体内に瘀血を生じやすいと考えられています。
一概に瘀血、血行障害に対する漢方薬といっても様々な種類があり、体質的な傾向や症状によって、その方に合ったもので無いと改善が難しいケースが殆どです。
使われる事の多い漢方薬
〇桃核承気湯
〇通導散
〇大黄牡丹皮湯
〇桂枝茯苓丸
〇折衝飲
〇疎経活血湯
〇芎帰調血飲第一加減
〇当帰芍薬散など
冷えに対する漢方薬
最近はそうでも無いのかもしれませんが、元々西洋医学は冷えに対する意識が希薄だとも言われおり、検査を繰り返しても原因がはっきりしない症状の中には、冷えが関係している事が少なからず存在します。
身体を温める漢方薬を用いる事で、原因不明の痛みなどの症状が改善する事は珍しい事ではありません。
附子や乾姜、呉茱萸や当帰など温める作用のある生薬が含まれる漢方薬が用いられます。
使われる事の多い漢方薬
〇桂枝加苓朮附湯
〇葛根湯加苓朮附湯
〇当帰四逆加呉茱萸生姜湯
〇五積散
〇真武湯
〇人参湯など
知覚神経の過剰反応(自律神経のバランスの乱れ)に対する漢方薬
強いストレスが契機となって線維筋痛症が発症するケースは多いようです。
ストレスが多くの原因不明の慢性的な痛みに関係している事が最近分かり始めています。
強いストレスが続くと自律神経のバランスが乱れ、知覚神経の過剰反応が起きる事があります。
そうなると本来なら痛みを感じるはずの無い小さな刺激でも、強い痛みとして感じてしまうようになります。
最初は外傷によって実際に関節や筋肉に異常があり、それが種々の治療で改善したはずなのに、いつまでも感覚としての痛みが残ってしまうといった事も起こります。
慢性的に強い痛みが続くと精神的な負担も大きくなり、それがますます自律神経のバランスの乱れに繋がるといった悪循環にもなります。
そのため線維筋痛症の中のかなりの割合に、自律神経のバランスを整える事を目的とした漢方薬を組み込まないと改善が難しいケースがあるように思います。
そして漢方薬はこの自律神経のバランスを整えるという事に関しては、古くから取り組んできた歴史があり、得意としている分野の一つでもあります。
また自律神経のバランスが崩れて交感神経の過緊張が続くと、血管収縮が起きるため瘀血(血行不良)の原因になります。
血行が悪いと冷えの原因になりますし、冷えが強いと血流も悪くなりがちです。
そのため自律神経に対する漢方薬と瘀血に対する漢方薬など、その方の状態に合わせて漢方薬を組み合わせる必要のある事が多いです。
もちろん血流や冷え以外に線維筋痛症の原因がある事もあり、東洋医学的な原因を正しく見極めて漢方薬を選択する事が大切です。
使われる事の多い漢方薬
〇桂枝加竜骨牡蠣湯
〇柴胡加竜骨牡蛎湯
〇加味逍遥散
〇逍遥散
〇半夏厚朴湯
〇柴朴湯
〇抑肝散
〇四逆散
〇柴胡疎肝散
〇柴胡桂枝湯
〇柴胡桂枝乾姜湯
〇苓桂朮甘湯
〇桃核承気湯
〇甘麦大棗湯
〇香蘇散など
改善症例
〇30代・女性
筋挫傷が契機となり背中や前胸部の痛みが続いています。
MRIやレントゲンの検査を受けましたが異常は無く「線維筋痛症」「神経障害性疼痛」と診断を受けており、現在はデパス、サインバルタを服用していますがあまり効果は感じないようです。
毎日背中や前胸部のビリビリ、ヒリヒリするような痛みがあり、疲労やストレスで明確に悪化します。
体質的な傾向や症状の出方から、筋肉の緊張を緩める事を目的とした漢方薬と知覚神経異常(自律神経の乱れ)を改善する事を目的とした漢方薬をお出ししました。
漢方薬飲み始めて2カ月後には自覚的な痛みが10→3ぐらいに減りました。
また痛みを全然感じない時間が増えてきました。
調子が良いのでパスの量も半分に減らしています。
3カ月後には普段の生活では殆ど痛みを感じる事が無くなりました。
調子が良いのでデパスの服用も止めています。
ただし疲れたり、ストレスが掛かると痛みが出てきます。
半年後
引き続き普段の生活では殆ど痛みは気にならないため、サインバルタの量も半分に減らしています。
ただしやはりストレスがかかると痛みが出てしまうため自律神経に対する漢方薬を変更しました。
11ヶ月後
サインバルタの服用も止めましたが調子は安定しています。
ストレスが掛かった際の痛みも以前ほどでは無いようです。
漢方薬を2種類とも自律神経のバランスを整える作用のあるものに変更しました。
12カ月後
この1ヵ月間は一段と調子が良くなり痛みは落ち着いています。
向精神薬の服用は完全に止めていますが、以前のように痛みで日常生活に支障が出る事は殆ど無くなりました。
線維筋痛症に対する漢方薬での有効例の報告は年々増えてきていますが、中には改善が非常に難しくなかなか症状に変化がみられない事があります。
それでも漢方薬により痛みの大幅な軽減がみられ、日常生活への影響を殆ど感じなくなったり、中には症状が完全に消失して再発しない段階まで根治出来る事も少ないと感じています。
線維筋痛症でお困りの方はご相談下さい。
また病院で線維筋痛症と診断されたわけでは無くても、原因不明の痛みにお悩みの方はご相談頂ければと思います。
出来れば最初はご来店頂くのが望ましいのですが、遠方の方、事情で来店が難しい方には電話(0598-30-6525)やメールでのご相談にも対応しています。